Gemini Enterprise Agent Platform が掲げる生成AI導入に向けた課題への対応とは
目次
はじめに
Google Cloud Next 2026 のセッション「From creativity to production: Innovate and scale with gen media models」の内容をレポートします。
本セッションでは前半で Gemini Enterprise Agent Platform を含む最新のアップデートと導入事例が紹介されました。本記事では、最新情報のまとめと企業利用の観点にフォーカスして紹介します。
Gemini Enterprise Agent Platform
Gemini Enterprise Agent Platform とは
AIエージェントの構築(Build)・拡張(Scale)・ガバナンス(Govern)・最適化(Optimize)という4つの柱を軸に、開発・運用・ガバナンスを一元化する統合プラットフォームとして紹介されています。主な構成要素は以下となります。
・Agent Studio(ローコードのエージェントビルダー)
・Agent Development Kit(ADK)(コードファーストの開発キット)
・Agent Runtime / Memory Bank(長時間実行エージェントと永続的コンテキスト保持)
・Agent Identity / Agent Registry / Agent Gateway(エージェント向けガバナンス三機能)
・Agent Simulation / Agent Observability(テスト・監視)
・Model Garden(Gemini 3.1 Pro、Claude Opus / Sonnet / Haiku など200以上のモデルへのアクセス)
主要サービスの対応関係
Gemini Enterprise Agent Platform としての再編により、名称の変更等が多いため、過去サービスとの対応関係を整理します。
| 旧サービス名 | 現在の位置づけ(2026年4月〜) |
| Vertex AI | 旧機能は維持して、Gemini Enterprise Agent Platform統合 |
| Vertex AI Agent Builder | Agent Studio/ADKに発展 |
| Gemini Enterprise | Gemini Enterprise app、Agent Platform 上のフロントエンド |
| Gemini for Google Cloud | Gemini Enterprise app に集約 |
| Model Garden | 200以上のモデルをAgent Platform 内で提供 |
| Vertex AI Prediction | Agent Platform の Agent Runtime に統合 |
加えて、Google Cloud Next 2026 前後のタイミングで Agent Platform の Model Garden 経由で新たにエンタープライズ提供・機能拡張されたマルチモーダル生成モデル群を整理します。
| モデル / 機能 | 種別 | 概要 | 提供ステータス |
| Nano Banana 2(Gemini 3.1 Flash Image) | 画像生成・編集 | Flash 系の高速画像生成・編集モデル。速度重視の用途向け | Public preview(Vertex AI / Gemini API) |
| Nano Banana Pro(Gemini 3 Pro Image) | 画像生成・編集 | Pro 系の高品質画像生成・編集モデル。最大 14 枚の参照画像入力に対応、エンタープライズ向けの Provisioned Throughput 対応 | GA(Vertex AI / Workspace) |
| Veo 3.1 Lite | 動画生成 | Veo 3.1 の低コストモデル、Veo 3.1 Fast の50%未満のコストで同等の生成速度 | GA(Vertex AI / Gemini API) |
| Veo Upscaling | 動画超解像 | アップスケーリング機能、最大1080p・4K に拡張可能 | Private preview |
| Lyria 3 / Lyria 3 Pro | 音楽生成 | Google DeepMind の音楽生成モデル、イントロ / ヴァース / コーラスなど構造指定も可能 | Public preview(Vertex AI / Gemini API) |
| Gemini 3.1 Flash TTS | 音声合成 | 音声タグによるスタイル・ペース・配信制御、70以上の言語、複数話者を標準サポート | Public preview(Gemini API / Vertex AI) |




アップデート
純粋な新規機能というよりも、これまで分散していたサービス群を「エージェント」という概念のもとに再編成したという側面が大きいです。
一方で、Agent Identity / Agent Gateway / Agent Simulationといったエージェント運用に特化したガバナンス・テスト機能は明確な新規追加で、エンタープライズでの本番運用を見据えた実用的な進化の方向性も見られました。
| 層 | 名称 | 役割 |
| 1 | AI Hypercomputer | TPU による計算基盤 |
| 2 | Agentic Data Cloud | BigQuery とクロスクラウド Lakehouse 等のデータ基盤 |
| 3 | Agentic Defense | Google Threat Intelligence + Wiz 連携のセキュリティ基盤 |
| 4 | Agent Platform & Models | 本プラットフォーム(Gemini / Claude 等のモデル群) |
| 5 | Agentic Taskforce | Customer Experience / Workspace 向け業務特化エージェント |
生成AIの民主化とは?
セッション導入で印象深かったのは、生成AIにより今起きている変化が過去のアクセス民主化という系譜に位置づけられていた点でした。映画・音楽・テクノロジーの領域で、かつて一部の専門家が担っていた表現手段が、インターネットの普及を経て誰もが利用・公開できるようになった構図と同じです。
生成AI領域でも、プロのクリエイターが行っていた表現が、モデル性能の向上と使いやすいインタフェースによって誰もが参加可能な段階に到達してきました。さらに、この民主化は生成画像のSNS投稿のような個人用途を超え、企業利用の段階に達しつつあります。
ただし、企業導入に向けたスケールアップは単に「同じモデルを大量に呼び出す」では済まず、個人利用では気にならなかった制約が顕在化します。
ここから発生する課題を意識して、今回の Gemini Enterprise Agent Platform での再編が行われていると考えました。
本番運用に立ちはだかる3要件
各種メディア生成用途で導入する際に直面している課題

3要件の議論に入る前提として、企業がメディア生成用途で生成AIを導入する際に直面する課題の調査結果が紹介されました。
| 順位 | 課題 | 回答率 | 主な論点 |
| 1 | Copyright, legal and IP risks(著作権・法務・IPリスク) | 75% | 学習データおよび生成物の著作権侵害リスク、知的財産の扱い、利用規約や責任範囲の不透明さ |
| 2 | Brand consistency and quality alignment(ブランド一貫性と品質整合) | 68% | ブランドトーン・デザインの一貫性の担保、出力品質のばらつき |
| 3 | Lack of clear ROI / value measurement(ROI 測定の困難さ) | 58% | 投資対効果の定量化、業務効率化や売上貢献度の可視化 |
| 4 | Integration with existing media workflows(既存ワークフロー統合) | 52% | Adobe・DAM・CMS 等の制作フローとの接続、人間の制作プロセスへの組み込み |
| 5 | Data privacy and security concerns(データプライバシーとセキュリティ) | 48% | 機密データの漏洩リスク、社内データを学習に利用してよいかの判断 |
| 6 | High need for human oversight / curation(人による監督・キュレーションの必要性) | 45% | 完全自動化の困難さ、レビュー・修正を前提とした「AI+人」のハイブリッド運用 |
上位3つが著作権・ブランド整合性・ROI 測定と、「組織・運用・リスク管理」寄りの論点で占められている点が示唆的です。従来のMLOpsではモデル精度の改善を考えることが多いですが、生成AIのクオリティが向上してきたことにより、今後の実運用に向けた課題は、「生成の性能」から「組織・運用・リスク管理」側へ移りつつあると言えます。
上記の課題から、セッションでは企業導入における共通要件として次の3点が示されていました。
1.信頼と保護
2.品質
3.投資対効果とスケール
3要件の整理
各要件の内容と、セッション内で示された Agent Platform 側の対応要素を以下に整理します。
| 要件 | 内容 | Agent Platform の対応要素 |
| 信頼と保護 | モデルが安全に運用されていることへの絶対的な信頼。著作権の扱い、厳格なデータプライバシー要件、生成物の来歴追跡まで含む広義の信頼 | 「your data is your data」を掲げた顧客データの非保持・非転用ポリシー。全モデル(Gemini / Imagen / Veo など)の出力にSynthIDウォーターマークを埋め込み、来歴検証を可能化。入力データ・生成出力双方を保護対象としている |
| 品質 | 素晴らしいアセットを生成できるだけでなく、ブランドガイドラインやプロクリエイターの意図に沿い、実務で「使えるアセット」まで持ち込めること | 実例として、Adobe Photoshop におけるライブデモではシーン追加から髪の彩度・露出調整までを約1分で完結など生成のカスタマイズ性 |
| 投資対効果とスケール | 価値ある成果を適正コストで大規模に生み出し続けられること | 小規模から本番フルスケールまで同一基盤上で連続的に拡張できるインフラ、従量課金から大規模利用向けまでの多様な料金体系、ガバナンスと最先端モデル性能を両立させる設計が可能。業務アプリ領域ではGemini for Workspaceが同じ基盤上のモデル活用レイヤとして接続 |
まとめ
生成AIの本番運用は、結局のところデータパイプライン設計と同じところに帰着するのではというのが、本セッションを通じた印象でした。モデル性能そのものよりも、その前後に流れる入出力データをどう管理・計測・統治するかが、企業利用における成否を分けるのではないでしょうか。
データエンジニアの視点としてそれぞれを見ていくと、信頼と保護はデータリネージの観点で整理するのが自然です。入力データと生成物の双方に来歴メタデータ(SynthID/C2PA)を紐付け、データカタログや監査ログから参照できる状態に揃えておくと、プライバシー・コンプライアンス対応のコストを大幅に削減できます。「どのモデルが、どの入力で、どの出力を生んだか」をパイプラインのメタデータとして残すイメージに近いでしょうか。
品質は生成AIでは「出力の主観的な良し悪し」になりがちですが、データエンジニア視点ではデータ契約(入出力スキーマ、データ特性制約)と継続的な検証パイプラインとして考えられます。入出力のフォーマット・メタデータ要件を決め、エンドツーエンドの評価指標を可視化することでモデル更新・差し替え時の比較や劣化検知も対応できます。
投資対効果とスケールでは、呼び出し頻度・単価・レイテンシなどの軸でコストモデルを組むなど基盤設計をデータエンジニアリング側で押さえられます。
本セッションを踏まえて、生成AIの出力結果に対して基盤内でどのように処理フローとモニタリングを整備していくかが重要になると感じました。