Snowflake Summit 2025 最速レポート3日目②
-セッション解説 Toyota Motor Europeに学ぶデータメッシュ実践編-

DATUM STUDIOの西川です。
現在サンフランシスコで開催中の「Snowflake Summit 2025」Day3のセッションの内容をご紹介します!
目次
はじめに
近年注目を集めているデータメッシュですが、その実現のためには「技術」だけでなく「文化」「組織」「プロセス」も重要な要素として挙げられます。本記事では、トヨタ自動車グループで同社の欧州エリア事業を統括しているToyota Motor Europeが、どのような独自の思想と体制でデータメッシュを構築したかについてご紹介します。
データメッシュとは?

従来の「中央集権型データ基盤」の課題
多くの企業では、すべてのデータを一カ所に集めて処理する「データレイク」や「DWH」中心のアーキテクチャが一般的でした。しかし、これには以下のような課題がありました。
- ・データチームに負荷が集中(ボトルネック化)
- ・ドメイン知識がデータエンジニアに伝わらず、品質や文脈の乖離が発生
- ・部門ごとのニーズに迅速に対応できない
データメッシュとは
データメッシュ(Data Mesh) は、こうした課題を解決するための「分散型のデータ管理・運用の考え方」です。各業務部門(ドメイン)が自らデータを「プロダクト」として管理・提供し、データチームは全体のガバナンスと共通基盤の部分を担います。
データメッシュの4つの原則(by Zhamak Dehghani)
- ・ドメイン指向のデータ所有
- ・各事業部門が自分たちのデータに責任を持つ
- ・データをプロダクトとして提供
- ・ユーザー視点で使いやすく、品質の高いデータを提供
セルフサービスのデータ基盤
- ・インフラ・ツールは共通化して誰でも簡単に使える状態を整備
- ・共通のガバナンスと標準
- ・セキュリティ・命名規則・ドキュメントなどは全社共通で管理
なぜ注目されているのか?
- ・「スピード」と「ガバナンス」の両立が可能
- ・大規模・多国籍企業でも、部門ごとに自律的に動ける
- ・AI時代において「再利用できる良質なデータ製品」を増やす土壌に
Toyota流データメッシュにおける5つの特徴
①トヨタ生産方式(TOYOTA Production System:TPS)をベースにした「5Sデータ戦略」
TPS | データ戦略における位置づけ |
---|---|
整理 (Sort) | データの重複排除・必要データの選定 |
整頓 (Set in order) | ドメイン構造とデータマーケットプレイスによる論理的整備 |
清掃 (Shine) | データ品質・クレンジング・観測性(Observability) |
清潔 (Standardize) | 標準プロセス・命名規則・ガイドライン(TOM, MAP) |
習慣・しつけ (Sustain) | 各ドメインでの責任持った運用、現場主導のオーナーシップ |

製造業で培った現場の力をデータマネジメントにも応用しているのは、他社にはないユニークさです。同時にTOYOTAカルチャーの強さが海外でも根強く浸透しており、文化醸成の重要性を再認識しました。
②「Domain as Code」:ドメイン構造の自動生成スクリプト
新しいデータドメイン(例:営業、物流、顧客360など)をSnowflake上にコードベースで自動生成しているようです。それにより、データメッシュのスケーラビリティ(新ドメイン発行時にガバナンス組織からルールを配布する工数による)の課題に、現実的に対応しているとのことです。
具体的には以下のようなスクリプトを定義・実行しています。
- ・ステージ層/加工層/アクセス層のスキーマ分離
- ・仮想ロールの自動割り当て(データエンジニア、分析者など)
- ・ガバナンス設定(誰がどこまで見られるか)
③水平・垂直ドメイン構造(Functional × Enterprise 360)
データメッシュでは「事業部別ドメイン」が採用されることが多いですが、Toyota Motor Europeでは、
- ・部門ドメイン(例:サプライチェーン、マーケティング)+ 横断的360度ドメイン(例:顧客360、車両360)
を採用しており、これにより各機能部門がローカルにデータを所有しながら、複数部門のデータをビュー形式で統合する“ミニデータウェアハウス”的役割を実現しているそうです。

④AI・同意管理との組み合わせ(Consent-aware Mesh)
EU法(AI ActやGDPR)への対応として、データ利用目的ごとに同意情報を紐付けて管理。
例:「R&D目的のみに同意した顧客データ」はマーケティング分析には使えない。
利用申請時にCollibra上で「利用目的」「利用期間」などを申告 → 自動判定・制御。


⑤“Keep it Simple” の原則を強調
データメッシュやAI基盤を複雑にすることなくシンプルで運用しやすい形に保つことを重視し、複雑さを技術で制御するのではなく「構造のシンプルさ+標準化」をSnowflakeのレイヤリング、Collibraによる可視化、スクリプトによる構成で対応していました。


まとめ
Toyota Motor Europeは、データメッシュの教科書的な設計というよりも、製造業ならではの秩序・標準・再利用性を体現したユニークな事例だと感じました。ガバナンスや現場運用を重視する企業にとって、この事例は大いに参考になります。
ここまでデータメッシュアーキテクチャを作り上げているToyota Motor Europeも、まだまだセマンティックレイヤーの導入やIDマネジメントにおいては課題があるとのことで、データの世界は本当に奥深いですね。
また進化したToyota Motor Europeのデータ活用について聴ける機会があった際には、ぜひ注目してみてください!

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